精神神経免疫学
生物医学的研究により、免疫系がいかに神経支配を受けているか、新しいメカニズムが次々と解ってきています。つまり免疫機能が心の影響を受けているということです。例えば、体の疲労や不安などの精神的ストレスが溜まっていると、風邪をひきやすいということは、経験的に知っていると思います。リウマチの患者さんに落語を聴かせると良くなってきたなど「笑いの効果」、の話などは聞いたことがあると思います。
また、新潟大学医学部の安保徹教授の理論では、白血球のリンパ球に副交感神経の刺激物質であるアセチルコリンの受容体があり、顆粒球には交感神経刺激物質のアドレナリンの受容体を持っていると言います。これは生物が環境に適応するために自律神経が巧みに働いている証拠です。しかし、ストレスによって交感神経が刺激されれば顆粒球を増やし活性酸素が体内に生まれ、弊害を起こします。神経伝達物質と免疫系のつながりは、逆に薬の副作用からもわかります。インターフェロンによる、うつなどの副作用です。インターフェロンなどのサイトカインは気分を調節する脳の神経伝達物質、ノルアドレナリンやセロトニンに作用している事もわかっています。
考え方として大事なことは、体の全ての反応は、環境やストレスから自分の体を守るために働くということです。必要だから起るのです。例えばコレステロールも必要だから増えるのです。血圧もその人にとって、その状態を維持していくには必要なのです。東洋医学でも人間は環境の一部です。このように精神神経免疫学の研究によって心と身体が影響しあっていることが確実にわかってきました。大事なことは臨床にどう生かしていくかということです。
例えば本来、痛みに対しては、(COX阻害により)プロスタグランディンの生成を妨げるより、βエンドルフィンを放出させるほうが、痛みを抑える力が強いのです。しかし、不安や恐怖、痛みや苦しみに対して、脳は体の治癒力を高めようとはせず、外部からの脅威に備えようと反応します。進化の結果、それ以上の痛みの予防(恐怖のため)を最優先します。脳が戦闘待機に入り、回復があとまわしにされると、ストレスホルモンが血液中に放出され、呼吸、血圧、心拍数、血糖などを押し上げます。こうした身体の変化がよけいに、回復を遅らせます。
実際の例として、「ぎっくり腰」や「腰痛」の場合、みんなすぐに薬局や病院にいきません、すこし安静にしていれば治ると思い、何日か経ってから病院や、薬局に行きます。どうしようもなくなってからくるのですよね、本当は変だなと思ったらすぐ、消炎鎮痛剤を飲めば、3日位でよくなるのに、「変だな」くらいの時です、軽い痛みのときくらいの時がちょうどいいのです。くすりはあまり飲みたくないなどと言って、湿布薬などを貼っている人もいますが、私は早く消炎鎮痛剤を飲んで痛みを忘れさせた方がいいと思います。(湿布薬は冷やすため逆効果です、それよりはお風呂に入ってよく暖めた方が良いとおもいます(朝風呂がお勧め)。そうしないと、「痛みという恐怖の記憶」が長くインプット(トリガーポイントの刺激)され、痛みがひどくなったり、また繰り返す可能性があります。「私は腰が弱いから」だとか、「腰痛持ちだから」などになっちゃいます。あの時は何でもなかったと、思う方がいいのです。痛みの記憶(恐怖)が長く残らないうちにです。従って、私は痛みの場合「今はその薬(痛み止め)が必要なのですよ、その薬に頼ってください、何も一生飲むわけではないのですから」と言って痛み、恐怖のストレスを取ることを優先させます。そしてそれから原因(この場合ストレスによる怒りの感情)を考えます。
もう一つの例をあげます。私の薬局では皮膚病が多いため安保理論による湿疹、おできの例を話します。患者さんはよく「何でこれはできるのかしら」とよく聞いてきます。私は、皮膚の三つの「あ」ってわかりますか、あせ、あぶら、あか、この三つで皮膚は出来ているのですよ、皮膚の表面には常在菌と言って眼には見えないけどたくさんの、いい菌や悪い菌もいます、私達はこういう菌と共生しているのですよ。こういう菌がいるおかげで、皮膚はうるおいを保っているのですよ。しかし交感神経が緊張すると、白血球のなかの顆粒球が常在菌を攻撃してしまって、湿疹やおできみたいなのができちゃうのですよ、じゃあなんで交感神経が緊張するかというと、と言ってストレスの話に入っていきます。そして最後に、心から笑うことやウキウキワクワクする楽しみを作るようにアドバイスします。または、「自分にごほうびを、ドーンとあげちゃいましょうよ!」などと話をします。